始めに
ピカソ「ゲルニカ」解説を書いていきます。
背景知識、伝記
キュビスム
ピカソのキュビスムのはじまりは『アビニヨンの娘たち』でした。
キュビスムは、ルネサンス以来の単一焦点による遠近法を放棄し、複数の視点による対象の把握と再現をはかりました。また対象の解体や抽象化、セザンヌや新印象主義の筆触の影響を受けています。
印象主義からキュビスムへ。モダニズム文学との関連
キュビスムの前史としての印象主義は、ただ単に遠近法のコードに従って視覚的情報を絵画的平面の上に捉えようとするのではなくて、対象の質感や顕われなどの微妙なニュアンスを、感じたように、感じられるように描くというアプローチが展開しました。こうした認識論的な視点を美学的再現に反映するアプローチは、ルネサンスの遠近法などからしてそうですが、やがてこのピカソに代表されるキュビスム絵画においてさらなる発展を見せていきます。
キュビスムのコンセプトと近いのは、同時代の前衛文学であるフォークナー(『アブサロム、アブサロム!』『響きと怒り』)、プルースト(『失われた時を求めて』)、ジョイス(『ユリシーズ』)などのモダニズム文学です。このモダニズム文学に典型的な手法が意識の流れです。ジョイス『ユリシーズ』、フォークナー『アブサロム、アブサロム!』『響きと怒り』、プルースト『失われた時を求めて』などに見える意識の流れの手法は、現象学(フッサール、ベルクソン)、精神分析などの心理学、社会心理学、プラグマティズム的な知見を元に、伝統的な小説にあった一人称視点のリアリズムをラディカルに押し進めたものでした。意識的経験の時間軸のなかでの全体性を描きます。
人間の意識的経験やそれにドライブされる行動は、時間軸の中で全体性を持っています。主観的な時間の中で過去と現在と未来とは、相互に干渉し合って全体を形作っていきます。過去の経験や知覚が因果になり、さながら一連の流れとも見えるように、意識的経験は展開されます。こうした時間論的全体性を描くのが意識の流れの手法です。現実の社会における実践はこのような個々のエージェントの主観的経験が交錯するなかでその時間的集積物として展開されます。
つまるところ意識の流れは時間軸のなかでの主観的な時間経験と認識論的プロセスを活字メディアにおいて再現しようとしたものと言えます。キュビズムも、こうした部分でモダニズムと重なります。
人間は時間軸のなかで対象を観察し、過去の経験から得られた情報やそれを総合したモデルとの摺合せの中で、対象を構造的に捉えようとします。生得的な計算モジュールから、対象の視覚などで知覚できない部分も予想やシミュレーションで補完しつつ、それを現在の認識的経験とすり合わせつつ、時間軸のなかで対象を構造的に把握しようとします。
キュビズムはそうした認識プロセスを絵画的平面に写し取ろうとします。キュビスムは、ルネサンス以来の単一焦点による遠近法を放棄し、複数の視点による対象の把握と再現をはかることで、まさにそうした認識論的プロセスを絵画の美学的再現レベルで展開しようとしました。
絵画世界
作品内容
中央に大きな長方形、左右に小さな長方形と、画面は3枚の長方形からなり、右側の長方形には3人の女がいて、左上の女は灯火を手に窓から身を乗り出し、右の女は燃え盛る家から落下しており、左下の女は中央に駆けています。
左側の長方形には女と牡牛がいます。女は子の屍を抱えて泣き叫んでいます。中央の長方形には馬と戦士がいます。馬は槍で貫かれ、戦士は折れた剣を握りながら死んでいます。中央の長方形の頂点には女の持つ灯火が配置されます。
灯火の左脇には目のような形の光源があり、その左下には上方に羽ばたきながら口を開けている鳥がいます。
色彩はモノクロームに近いが、灰色にはグラデーションがあります。
画面全体には中世の三連祭壇画とギリシア神殿建築の影響が見え、全体的にキリスト教的な象徴性が見て取れます。
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