始めに
デュシャン「泉」解説を書いていきます。
背景知識、伝記
作者とダダイズムについて
本作はマルセル=デュシャンの作とされていたものの、本作を含む多くのデュシャン作品は、ドイツのダダイストの芸術家、詩人の女性、エルザ=フォン=フライタークローリングホーフェンが制作したというのが通説です。
エルザは1913年から1923年までニューヨークのグリニッジ=ヴィレッジにおいて活動し、ダダイズムを代表するアーティストです。
ダダイスムは、1910年代半ばに起こった芸術運動です。第一次世界大戦とそれ以降のニヒリズムを踏まえ、既成の秩序や常識に対する、否定を大きな特徴とします。活動は各大都市にありましたが、ツァラはアンドレ=ブルトンに招聘されてパリに活動の場を移した後、やがてブルトンとの対立が先鋭化し、1924年にはダダから離脱したブルトン派によるシュルレアリスムが派生しています。
本作のコンセプト
本作はコンセプトてしてのアートであるところのコンセプチュアルアートや、ポップカルチャーを参照しつつもポップ=カルチャーや大衆消費社会に批判的に言及するポップ=アートの先駆になりました。
本作は何が斬新だったかというと、1.アートが文脈によって成立するということをパフォーマンスとして提示してみせたこと、2.既存の秩序にたいするアンチテーゼとしてのダダイズムというジャンルや、それ以前からある印象主義などによる硬直化した遠近法的リアリズムへの意義申し立てなどのメインストリームのアートへのアンチテーゼの文脈を踏まえていること、3.文学なども含めたアート全体における反ブルジョワ主義的な文脈のなかにおいて、コンセプトとして大衆消費社会の製品を取り込みつつも、それやアートの既存の秩序に批判的に言及して見せたことが、エポックメイキングでした。
とはいえアートの前提には歴史的文脈があること、既存のアートのコードやモードへの異議申し建ては伝統的に美学や芸術のなかで論じられたり実践されてきたことで、これ自体に思想史的インパクトが大きいわけではなく、あくまでもこれをコンセプト中心のアートとして示したパフォーマンスが卓越していたと評価できるでしょう。
絵画世界
作品内容
『泉』は、1917年に制作されたレディメイドの芸術作品で、磁器の男性用小便器を横に倒し、”R.Mutt”という署名をしたものです。
本作はただの小便器の既製品に過ぎず、ほとんどそれに対する加工はなされていません。
コメント